無限粒子系の確率解析学【基盤研究(S)課題番号16H06338】(長田博文/九州大学大学院数理学研究院)

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研究概要

チームの紹介

基盤研究(S)「無限粒子系の確率解析学」に対する研究チームの構成員を紹介します。

研究代表者

研究分担者

研究協力者

学術研究員

  • 得重雄毅 (京都大学数理解析研究所) 2019年4月--
  • 河本陽介 2018年4月--9月
  • 徐 路 2017年4月--2018年3月
  • 横山聡 2017年4月--2018年3月
  • 江崎翔太  2016年9月--2017年3月
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研究目的

 無限粒子系とは、統計物理に典型的に出現する対象で、単一もしくは有限種類の無限個の粒子の集団です。無限粒子系を、配置空間(点測度から成るラドン測度の空間)の元として捉え、点過程(配置空間の確率測度)で無限粒子系の定常状態を表現します。また、ユークリッド空間で、初期状態でラベルを付けその無限個の粒子の連続運動のランダムな時間発展を考えた場合は、その確率力学は、対称性のある無限次元確率微分方程式として記述されます。これらは、干渉ブラウン運動と呼ばれる確率力学で、無限次元確率微分方程式で記述されます。

(干渉ブラウン運動については、前研究のホームページを参照して下さい。) http://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~osada/outline.html

 これまで、スキームと末尾事象の解析(スキームとテイル)という新しい手法を開発し、無限粒子系を記述する無限次元確率微分方程式を研究してきましたが、本研究ではそれを完成し一つの無限次元確率解析学として理論構築することを目的とします。

 同時に特別な部分クラスについて知られている可解モデルとしての構造と、確率解析を組み合わせて研究していきます。この解析学の手法は極めてロバストであり、連続空間の確率微分方程式のみならず、格子気体に代表される離散空間、あるいは、ジャンプ型の時間発展を持つ無限粒子系にも適応可能と思われ、その適応範囲の外延を拡げることを追求します。現時点で、確率解析の中でも、古典的な伊藤解析、また、Dirichlet形式理論を非常に多く用いますが、これを更にマリアヴァン解析、ラフパス理論、確率偏微分方程式など、他の確率解析とつなげていきます。

 無限粒子系の中の、一つの粒子に注目すれば、それはランダム媒質の問題となります。KPZ方程式や均質化問題、さらに相転現象など、様々な統計物理に動機づけられた興味深い問題に取り組んでいきたいと思います。

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主たる研究成果

 今回の研究の出発点は、研究代表者によって出版された、下記の4つ組みの論文1.--4.です。これによって、干渉ブラウン運動を記述する無限次元確率微分方程式を解く一般論を構築しました。

  1. Interacting Brownian motions in infinite dimensions with logarithmic interaction potentials. Ann. Probab. 41 (2013), no. 1, 1–49. https://doi.org/10.1214/11-AOP736
  2. Interacting Brownian motions in infinite dimensions with logarithmic interaction potentials II: Airy random point field. Stochastic Process. Appl. 123 (2013), no. 3, 813–838.
    https://doi.org/10.1016/j.spa.2012.11.002
  3. Infinite-dimensional stochastic differential equations related to random matrices. Probab. Theory Related Fields 153 (2012), no. 3-4, 471–509.
    https://doi.org/10.1007/s00440-011-0352-9
  4. Tagged particle processes and their non-explosion criteria. J. Math. Soc. Japan 62 (2010), no. 3, 867–894. https://doi.org/10.2969/jmsj/06230867

 この一般論を便宜上第1理論と呼びます。これは、(本質的に)すべてのギッブス測度に自明に適用できるのみならず、対数ポテンシャルその他の、従来不可能だった遠距離強相互作用を持つ点過程にも適用できるものです。前研究課題の主目的の一つは、それをAiry点過程に適応することでした。それを実行する際、分担者の種村氏と共に、干渉ブラウン運動を代表とする、対称性の高い無限次元確率微分方程式の、強解の存在とパスワイズ一意性を証明する一般論を構築しました。
 証明の基本的なアイデアは、末尾事象の解析と無限次元確率微分方程式を無限個の有限次元確率微分方程式のスキームと捉え直すことですが、斬新な手法であると自負しています。特に無限次元確率微分方程式の解の一意性を示せたことで、従来考えられなかった多種多様な強い結果が得られました。二つの主結果に関して、一般論については

  1. 長田博文, 種村秀紀
    Infinite-dimensional stochastic differential equations and tail σ-fields.
    Probability Theory and Related Fields 177, 1137--1242 (2020).
    https://doi.org/10.1007/s00440-020-00981-y
    http://arxiv.org/abs/1412.8674v12 
  2. 河本陽介, 長田博文, 種村秀紀
    Infinite-dimensional stochastic differential equations and tail σ-fields II: the IFC condition.
    https://arxiv.org/abs/2007.03214

また、Airy点過程(Airy干渉ブラウン運動)への応用は、

  1. 長田博文, 種村秀紀
    Infinite-dimensional stochastic differential equations arising from Airy random point field. (preprint) http://arxiv.org/abs/1408.0632v5 

で公開されています。これを第2理論と呼びます。

 第2理論は、様々なスピンオフを生むと思われます。実際、これに関して、代表者が著者となったものでは、次の9つの論文が出版、もしくは出版予定です。

  1. 河本陽介, 長田博文, 種村秀紀
    Uniqueness of Dirichlet forms related to infinite systems of interacting Brownian motions
    Potential Anal. (2020). https://doi.org/10.1007/s11118-020-09872-2
    http://arxiv.org/abs/1711.07796v2
  2. Alexander I. Bufetov, Andrey V. Dymov, 長田博文
    The logarithmic derivative for point processes with equivalent Palm measures
    J. Math. Soc. Japan, 71(2), 2019, 451--469. http://arxiv.org/abs/1707.01773
    https://doi.org/10.2969/jmsj/78397839
  3. 河本陽介, 長田博文
    Finite particle approximations of interacting Brownian particles with logarithmic potentials. J. Math. Soc. Japan, 70 (3), 2018, 921--952. PDF File
    https://projecteuclid.org/euclid.jmsj/1529309020 doi:10.2969/jmsj/75717571
  4. 河本陽介, 長田博文
    Dynamical Bulk Scaling limit of Gaussian Unitary Ensembles and Stochastic-Differential-Equation gaps, Journal of Theoretical Probability, Feb. 2018.
    https://doi.org/10.1007/s10959-018-0816-2  http://arxiv.org/abs/1610.05969v2
  5. 長田博文, 長田翔太
    Discrete approximations of determinantal point processes on continuous spaces: tree representations and tail triviality, Journal of Statistical Physics, 170 (2), 421--435. https://doi.org/10.1007/s10955-017-1928-2
  6. 長田博文, 種村秀紀
    Strong Markov property of determinantal processes with extended kernels.
    Stochastic Processes and their Applications 126 (1), 186-208 (2016)
    https://doi.org/10.1016/j.spa.2015.08.003
  7. 長田博文, 白井朋之
    Absolute continuity and singularity of Palm measures of the Ginibre point process.
    Probability Theory and Related Fields 165 (3-4), 725-770 (2016)
    https://doi.org/10.1007/s00440-15-0644-6
  8. 本田龍一, 長田博文
    Infinite-dimensional stochastic differential equations related to Bessel random point fields.
    Stochastic Processes and their Applications 125 (2015), no. 10, 3801--3822.
    https://doi.org/10.1016/j.spa.2015.05.005
  9. 長田博文, 種村秀紀
    Cores of Dirichlet forms related to random matrix theory.
    Proc. Japan Acad. Ser. A Math. Sci. 90 (2014), no. 10, 145--150.
    https://doi.org/10.3792/pjaa.90.145

 これら以外にも、本研究に関する多数の論文を作成中であり、研究の進捗状況は順調です。
これらの一般論の解説: 無限粒子系の確率幾何と力学:--ランダム行列と無限次元干渉ブラウン運動-- を、「数学(69巻3号 2017年7月 夏季号 225--254)」で出版しました。

また、英訳されたものがアメリカ数学会の「Sugaku Expositions」に掲載される予定です。

※英訳版ファイルはこちら

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