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長田研究室

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講義ノート

ランダム行列と非衝突拡散過程
( 確率論サマースクール, 2006 年8 月7 日〜10 日, 信州大学)

著者: 種村秀紀
所属:千葉大学理学部数学・情報数理学科

概要:
Dyson は, 対角成分が実ブラウン運動に従って変動し, 非対角成分が複素ブラウン運動に従って変動する,エルミート行列に値をもつ確率過程を考案した.行列のサイズがN £ N であるとすると,エルミート行列値なのでN 個の固有値は実軸上を運動することになるが,Dyson はその運動を記述するN 連立の確率微分方程式を導いた.この固有値の確率過程をDyson モデルとよぶことにする.実軸上の固有値を,それぞれ1 次元上の粒子の位置とみなすことにすると,Dyson モデルは1 次元N 粒子系を記述することになる.Dyson は,これはいかなる粒子間の衝突も起こらないという条件の下でのN 個の1 次元ブラウン運動(非衝突ブラウン運動)に他 ならないことを結論している[6]. 今回の集中講義では, これらのDyson の結果の拡張, 発展につ いて, この数年間の香取眞理氏(中央大学理工学部)との共同研究を中心に紹介する.

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平面内の2D クーロン無限粒子系の確率幾何と力学
(Stochastic geometry and dynamics of infinite log-gases in the plane)

長田博文 京都大学集中講義(2010 年)

集中講義概要 平面の中の無限個の粒子が2次元クーロンポテンシャル(対数関数) で相互作用するシステムを考える.このようなシステムを記述する確率測度の存在は非自明で,特別なポテンシャルの強さ(β = 2) の場合だけが構成されている.この測度は,非エルミート・ガウシアンランダム行列の固有値の分布の熱力学極限,つまりGinibre ensemble の極限なので,ここではGinibre random point fieldと呼ぶ.尚,直線上の対応物はDyson's モデルとよばれガウシアンランダム行列(GOE, GUE, GSE)の固有値の熱力学極限である.従来考察されてきたのは,Lebesgue測度を密度とするPoissonランダム測度や,Ruelleクラスの干渉ポテンシャルをもつGibbs測度であった. Poissonランダム測度は理想気体を表現する.無限粒子系の空間のLebesgue測度の役割を果たすものであり,Gibbs測度はそれに近いクラスである.ここで,Gibbs測度とは,与えられた干渉ポテンシャルをもつ無限粒子系を記述する測度を,その条件付き確率が満たすべき方程式(Dobrushin-Lanford-Ruelle方程式)で記述するものだが,その構成は,70年前後にRuelleクラスポテンシャルという超安定性と,正則性と呼ばれる遠方での可積分性のもとで確立した.しかし,クーロンポテンシャルは遠方で非可積分のため,この標準的なクラスから除外されていた.
 この講義では,いかに無限クーロン系(Ginibre random point field)が,Gibbs測度と異なる世界を形成するか,確率幾何および確率力学の視点から論じる.

内容

(1)  序:2D クーロンポテンシャル・平衡分布・無限次元SDE
(2)  配置空間・Gibbs 測度 その他の準備
(3)  Determinantal random point fields (RPF),Ginibre RPF の定義
(4)  微小搖動(small fluctuation)  準Gibbs 性:Dirichlet 形式論による確率力学(配置空間値の拡散過程)の構成
(5)  対数微分(部分積分公式):Ginibre RPF と2D クーロンポテンシャルとの関係の確立
(6)  無限次元確率微分方程式(ISDE)による確率力学の表現:
(7)  Palm 測度の特異性と絶対連続性,Kostlan 表現,Palm カップリング:random 結晶構造としてのGinibre RPF
(8)  Kipnis-Varadhan 理論
(9)  Ginibre Palm 環境のhomogenization,Periodic 2D クーロン環境のhomogenization,tagged particle 問題のphase transition 予想