研究アウトライン
研究目的
本研究の目的は、2次元クーロンポテンシャル(対数関数)によって相互作用する1次元および2次元空間の無限粒子系の確率幾何的および力学的性質を研究することです。これらは、干渉ブラウン運動と呼ばれる確率力学で、対称性の高い無限次元確率微分方程式で記述されます。
(干渉ブラウン運動については、前研究のホームページを参照して下さい。)
http://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~osada/outline.html
本研究の手段は、確率幾何的です。つまり、Dirichlet形式を用いて、確率力学系を拡散過程のレベルで構成し、次に確率微分方程式による表現(SDE表現)を構築しますが、その際、平衡分布の「準Gibbs性」と「対数微分」という二つの確率幾何的対象に注目して解析します。
逆温度が2、かつ1次元系の重要例について、時空間・相関関数の明示表現を求めます。また、スケーリング極限を求めて、確率力学系の大局的な構造を解明します。そのために、確率力学系の平衡状態となる点過程の、精密な確率幾何的考察を行います。本研究は、確率幾何の確率解析への応用の側面を強く持ちます。
2次元クーロンポテンシャルは強烈な遠距離相互作用を持ちます。その結果、通常のRuelleクラスのGibbs測度と全く異なる様々な現象が起こることが期待されます。この研究の目的は、それを確率幾何的および確率力学的視点から解明することです。
主たる研究成果
研究代表者は、下記の4つ組みの論文1.―4.によって、干渉ブラウン運動を記述する無限次元確率微分方程式を解く一般論を構築しました。
- H. Osada, Interacting Brownian motions in infinite dimensions with logarithmic interaction potentials. Ann. Probab. 41 (2013), no. 1, 1–49.
- H. Osada, Interacting Brownian motions in infinite dimensions with logarithmic interaction potentials II: Airy random point field. Stochastic Process. Appl. 123 (2013), no. 3, 813–838.
- H. Osada, Infinite-dimensional stochastic differential equations related to random matrices. Probab. Theory Related Fields 153 (2012), no. 3-4, 471–509.
- H. Osada, Tagged particle processes and their non-explosion criteria. J. Math. Soc. Japan 62 (2010), no. 3, 867–894.
この一般論を便宜上第1理論と呼びます。これは、(本質的に)すべてのギッブス測度に自明に適用できるのみならず、対数ポテンシャルその他の、従来不可能だった遠距離強相互作用を持つ点過程にも適用できるものです。本研究課題の主目的の一つは、それをAiry点過程に適応することでした。それを実行する際、分担者の種村氏と共に、干渉ブラウン運動を代表とする、対称性の高い無限次元確率微分方程式の、強解の存在とパスワイズ一意性を証明する一般論を構築しました。
証明の基本的なアイデアは、末尾事象の解析と無限次元確率微分方程式を無限個の有限次元確率微分方程式のスキームと捉え直すことですが、斬新な手法であると自負しています。特に無限次元確率微分方程式の解の一意性を示せたことで、従来考えられなかった多種多様な非常に強い結果が得られました。計画時点の想定を遙かに超えていると思われます。二つの主結果に関して、一般論については
- H. Osada, H. Tanemura, Infinite-dimensional stochastic differential equations and tail $ \sigma$-fields http://arxiv.org/abs/1412.8674v4 (preprint)
また、Airy点過程(Airy干渉ブラウン運動)への応用は、
- H. Osada, H. Tanemura, Infinite-dimensional stochastic differential equations arising from Airy random point field http://arxiv.org/abs/1408.0632v4 (preprint)
で公開されています。
5から始まった一般論を第2理論と呼びます。この理論は様々なスピンオフを生むと思われます。実際、これに関して、代表者が著者となったものだけでも、過去1年間に4つの論文が出版されています。
- H. Osada, H. Tanemura, Strong Markov property of determinantal processes with extended kernels. Stochastic Processes and their Applications (published on line) DOI 10.1016/j.spa.2015.08.003
- H. Osada, T. Shirai, Absolute continuity and singularity of Palm measures of the Ginibre point process. Probability Theory and Related Fields (published on line) DOI 10.1007/s00440-15-0644-6
- H. Ryuichi, H. Osada, Infinite-dimensional stochastic differential equations related to Bessel random point fields. Stochastic Processes and their Applications 125 (2015), no. 10, 3801–3822
- H. Osada, H. Tanemura, Cores of Dirichlet forms related to random matrix theory. Proc. Japan Acad. Ser. A Math. Sci. 90 (2014), no. 10, 145–150.
これ以外にも、本研究に関する多数の論文を作成中で有り、研究の進捗状況は、極めて順調です。これらの一般論の解説を、「数学」に投稿予定ですが、そのpreprintを記載します。
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