私にとっての数理物理とは? なぜ数理物理にこだわるのか?

Last Modified: January 11, 2001

「数理物理学」と言うのは,他の物理の分類(例:「素粒子論」「物性論」 「原子核論」)などと本質的に異なっています.即ち,これは 「数学的手法 を用いて物理を深く理解する」と 言う 方法論を 指しているわけで,研究対象そのものを限定しているわけではありません. (「そんなこと言うても「素粒子」とかは素粒子よりもっと細かいことやってる やんか」とか言う突っ込みはなし.)また,同じ「数理物理学者」と言っても, どのような数学的手法を主に用いるかで,かなりの違いがあります. この点をふまえて,以下では(1)私の具体的研究対象 (2)私の具体的研究手法 (3)私がなぜ数理物理にこだわるのか, を簡単に述べます.

1. 具体的研究対象

具体的には場の理論や臨界現象を研究対象としています. これらはたくさんの(実質的に無限個の)自由度の系が起こす協同現象ですが, その現れ方には顕著な法則性(普遍性)が見られます. 数学的には多数個の 確率変数の示す極限定理と見ることもできます. (より詳しい説明は 主要な研究テーマをご覧下さい.)

2. 具体的研究手法

私は主に解析的手法を用いた, 泥臭い研究スタイルをとっています. 解析と言っても基本的には教養の数学に毛の生えた程度のものです. これは特にこだわってそうしているのではありません. 対象とする場の理論や臨界現象が数学的にはまだまだ未開拓で, かっこいい 既存の数学的手法が使えるようには(少なくとも私には) 見えないから,仕方なくやっているのです. 日本には,主に代数的手法や 関数解析的手法を用いて素晴らしい成果を 挙げておられる数理物理学者が おられますが,私の手法は彼/彼女のものとは かなり異質です. 「数理物理」と言う言葉に反応して大学院受験を考えた方, 注意して下さいね.

3. なぜ数理物理(数学的厳密性)にこだわるのか

「数理物理」をやってきた最大の理由は言うまでもなく, それが自分には一番面白いからです. ですが,こう書いてしまうと身も蓋もないので,なぜ面白いのか, 少し述べます.

私の興味の対象は場の理論や臨界現象と言った, 理論物理学の標準的な問題です. ですから,対象から言えば,敢えて 「数理物理」と強調する必要はありません.また,自分の研究のウリとして, 数学的厳密性を前面に押し出したいとも思っていません.言うまでもなく, 物理の全対象を数学的に厳密化するなど不可能でしょうし, 生産的とも思えません.

しかし,これまでのところ,自分の研究成果は基本的に数学的に厳密な結果が 得られた段階でまとめるようにしてきました.その主な理由は, 「厳密性の要求を課すことによって,対象をより深く 理解できるのではないか」と言うことです.

もう少し言うと,以下のようになります.物理の研究を行っている上で, 「ここの所はこうなっているに違いない」と思わされることはよくあります (物理的直感).これ自身は大変重要なものですが,いつもいつも 「そうに違いない」で進んでいると,対象によっては大きく足を掬われるこ ともあります.また,「そうに違いない」(でも今一つはっきり説明できない) のはその問題(現象)の本質が見えていないから,数学的・物理的にもっと 面白いものを見逃しているから,かも知れません. 私にはその典型的な例が場の理論や 臨界現象であるように思え, 場の理論や臨界現象の 基本的なところは数学的に厳密な解析に価すると思うのです.

これが私が厳密性にこだわる理由です.厳密性は目的と言うよりは問題の 本質に迫るための手段です.(ですから, 厳密証明なしでも結果に自信が持てた場合は論文にしたこともあります.) ただ,まあ,これはあくまで理想論であって,現実には往々にして, 「厳密証明はできたけども 数学的本質は見えないまま」と言うことがおこります.だから上に述べた大義名分が 必ずしも正当化できるとは言えませんが...

List of scientific writings:


原の研究内容(J)に戻る
原の研究内容(E)に飛ぶ
原のホーム(J)に戻る
Made with Macintosh
Copyright 2000-present, Takashi Hara. hara%math.kyushu-u.ac.jp (Please change % to @.)

hara@math.nagoya-u.ac.jp