研究紹介

背景


 1974年、リチャード・キャンベルは、論文(Campbell, R.D., 1974. “Cell movements in Hydra,” Am. Zool. Vol. 14, pp. 523–535)の冒頭で、「ヒドラの細胞と組織は、流れの中にある」と記した。これは、ヒドラは、末端から死んだ細胞を外部に排出し、その一方で細胞増殖を行うため、体幹に沿って自発的な細胞の流れがある。この細胞の流れによって、常に細胞全体が更新され個体としての構造や機能は維持されているという意味である。 また、数理生物学の原点ともいえる A.M. Turing の論文(Philos. trans. R. Soc. Lond., Ser. B Vol. 237, pp. 37-72, 1952) においても、既にヒドラの触手部分のモデル化が行われている。 私は、ここ13年間、再生現象を数理モデル化することにより、再生条件を導出してきた ( [3] )。また、複数の細胞タイプが共存する条件を、代数的な手法を用いて楕円曲線を含んだ方程式の形で導出してきた( [2] )。更に、周囲から細胞が崩壊してゆく2次元上の単純な系を数理モデル化して、素イデアル分解を用いながら、 パターンが動的に維持される条件を求めた ( [1] )。

現在の研究

動物の肢を構成する複数の節(関節間)の長さの比率は、ダヴィンチの人体図で描かれて いるようにフィボナッチ比率とも黄金比率ともいわれている。しかし、どのようにそれ らの比率が発生過程で形作られているのかは分かっていない。また、コオロギ脚などは 切断されても、その先の関節も含めて再生できる(セグメント再生) 。一方、別々の節の 中間部分をそれぞれ切断してそれらを接合すると癒着するだけで、その間にあった構造 は再生しない場合がある。この現象は、肢の各部分に番号を割り振る、あるいは濃度勾 配を仮定するなどの従前のモデルでは説明できない。これら肢の謎の現象であるフィボ ナッチ比率再生とセグメント再生に対して、多細胞の集団を多変数多項式で表現するモ デル:Polynomial-lifeモデル ( [0] )にて探究している。
[0] Yoshida, H. “A model for analyzing phenomena in multicellular organisms with multivariable polynomials: Polynomial life,”Int. J. Biomath.s, Vol.11(1) , 2018.
[1] Yoshida, H. “A pattern to regenerate through turnover,” Biosystems, Vol. 110, pp. 43-50, 2012.

[2] Yoshida, H., Miwa, Y., and Kaneko, M. "Elliptic curves and Fibonacci numbers arising from Lindenmayer system with Symbolic Computation," Applicable Algebra in Engineering, Communication and Computing, Vol. 22, No. 2, pp. 147-164, 2011.

[3] Yoshida, H., et al. "Selection of initial conditions for recursive production of multicellular organisms," J. Theor. Biol. Vol. 233, pp.501-514, 2005.