▶海外長期インターンシップ報告(江田智尊)
●報告者:
九州大学大学院数理学府博士後期課程2年 リーディングプログラム生
江田智尊
●出張期間:
平成29年7月8日~平成29年10月2日
●渡航国(都市名)・用務先:
アメリカ合衆国・Fujitsu Laboratories of America, Inc.
●報告:
(a)本インターンシップでは,データ解析時の情報漏洩リスクを抑えるパターン認識・機械学習アルゴリズムについて研究を行った.本研究はデータの重要度が更に高まってきた今日において,非常に注目を集めている学術領域である.主な研究活動は,以下の通りである.
i. Intel Security Guard eXtensions (SGX)を用いた機械学習実行環境を構築した.SGXとは認証されたユーザーのみがアクセスできるEnclaveと呼ばれるメモリ領域を提供するCPUの拡張命令であり,第三者が該当メモリにアクセスできないよう制御することを可能にする.Enclave内で機械学習アルゴリズムを処理することで,病気の診療結果やクレジットカード履歴といった繊細な情報を扱うデータ解析を,より高いセキュリティ強度を持つ環境で実行することができる.滞在中は,Enclave内で実行可能な基礎的な機械学習実行環境の開発を行った.
ii. Data obliviousなデータ解析についての研究を行った."Data oblivious data analysis"とは,データ解析時のメモリアクセスパターンが入力データに依存しないことである.これまでのSGXの研究から,アクセストレースにより深刻な情報漏洩が起こる可能性が指摘されている.そこで機械学習アルゴリズムのメモリアクセスパターンが特定の入力データに依存しないよう改善を行い,前述の実行環境でdata obliviousな解析ができるよう開発を進めた.
以上の研究活動を通じて,暗号の基礎的知識や機械学習に関わる最新技術を学習することができた.その知識を,ライブラリの構築やdata obliviousなデータ解析に繋げることができた.また,C/C++, Assembly, Unixコマンドといった開発に必要なスキルを,実践的な研究を通じて体得することができた.
(b)海外のインターンシップに参加することで,海外企業の風土,研究活動への取り組みに触れることができた.FLAの研究者は現地の方々がほとんどであるが,日本から出向した方も数名おり,そのような方々と話をすると,海外の研究者の研究意欲は日本のそれと比べて高いことを指摘されていた.また研究の打ち合わせを通じてもそのような意欲の高さを目の当たりに見た.以前からそのような印象を頭の中ではぼんやりと抱いていたものの,実際に海外インターンシップに参加することで,漠然としたイメージが実感へと変化した.積極的な研究姿勢は勿論,企業だけでなく大学での研究にも非常に重要なことである.海外の研究者の方々から教わった研究への姿勢を,今後の博士での研究,ひいては就職後の仕事に生かしたい.