自然現象を記述する非線型微分方程式の定性的性質を解明することを目標としてきた。そのために、厳密解析・形式的計算・数値計算を相補的に用いて、共同研究者の協力を得ながら、数理的に考察している。
興奮性媒質における回転らせん波の研究
神経筋肉細胞やある種の科学反応溶液などは、一定値以上の刺激を加えると一過性の興奮状態になる。このような性質を持った媒質を興奮性媒質と呼ぶ。この媒質中では、興奮状態の領域が波として伝播する。興奮性媒質における進行波の運動を記述する、キネマティック方程式と呼ばれるモデルがあるが、これに対してらせん波を表現する回転定常解を研究した。
競争拡散系モデルの解が作る空間パターンの研究
数理生態学における3種競争拡散系モデルで、拡散係数を0にした極限をとると、空間2次元棲み分けパターンが現れる。その時間変化の考察を行った。
このパターンの特徴は、3本の棲み分け境界線のぶつかる3重結節点が現れることである。
本研究では、形式的計算により定式化された3重結節点を持つ界面の運動方程式と、もとの競争拡散系モデルとの数値実験結果の比較を行い、両者が一致することを確かめた。
3重結節点を持つ界面運動の定常解の研究
金属の結晶粒界の動きや、上記の3種競争系の特異極限における棲み分け境界の動きを記述する曲率駆動運動問題について、「定常解のまわりで線形化方程式を形式的に導出し、その固有値を厳密に調べる。」
という方法で、線形安定性の判定条件を導いた。特に、パラメータから不安定固有値の個数を完全に決定することができた.あわせて数値実験も行い、線形安定性がLyapunov
の意味での安定性の判定条件にもなっていることを確かめた。
最近、この結果を、3重結節点を複数持ち2進木に位相同型な定常状態に拡張することに成功した。
特異極限問題に対する数値計算法の研究
研究内容:
競争関係にある生物種の棲み分け現象を記述するモデルの一つに競争拡散系がある。中でも、種数が2である2種競争拡散系では、種間競争係数と呼ばれるパラメータを無限大にした極限をとると、競争拡散系の解が、ある非線型拡散方程式の解に収束する。この非線型拡散方程式に対して、演算子分割法に基づく数値計算法
Threshold Competition Dynamics (TCD) を提案した。
併せて、TCD がこの非線型拡散方程式に収束することを示した。さらに数値計算も行い、TCD が実際に収束する様子を調べた。