概要 |
Hamilton-Jacobi方程式の初期値問題の解の長時間挙動を考えた時に現れる定常問題を,
加法的固有値問題と呼ぶ.この加法的固有値問題の粘性解は,一意性が成り立たないこと
がよく知られている.力学系におけるAubry-Mather理論と粘性解理論との関係を整理
することで発展した弱Kolmogorov-Arnold-Moser (KAM) 理論において,Mather集合
またはAubry集合上で一致する粘性解は一意的であることが証明された.つまり,
これらの集合は,加法的固有値問題の粘性解の一意性集合の役割を果たす.
最適確率制御問題を考えると自然に現れる退化粘性Hamilton-Jacobi方程式は,
粘性解理論においてより自然な枠組みとして考えることができるが,従来の弱KAM理論では,
決定論的な力学系しか扱えないため,取り扱いが困難であった.この点に注目をして,
講演者は偏微分方程式論の立場から取り組むことで,弱KAM理論を発展させてきた.
本研究では,特に退化粘性Hamilton-Jacobi方程式の加法的固有値問題の一意性集合
について,最近得られた結果について紹介する.この結果は,非線形随伴法の新しい
応用の一つとして得られる.本研究は,H. V. Tran氏(U. Wisconsin-Madison)
との共同研究である.
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