Kyushu University Leading PhD Program in Mathematic for Key Technology 九州大学リーディングプログラム『キーテクノロジーを牽引する数学博士養成プログラム』

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▶海外長期インターンシップ報告(工藤桃成)

●報告者:
九州大学大学院数理学府博士後期課程2年 リーディングプログラム生 工藤桃成

●出張期間:
平成28年9月24日~平成28年12月19日

●渡航国(都市名)・用務先:
アメリカ合衆国・Fujitsu Laboratories of America, Inc.

●報告:
本出張は, リーディングプログラムにおいて博士後期課程2 年次に実施される, 海外企業での 研究長期インターンシップであった. 本出張の目標は, 報告者の数学研究能力に加えてリー ディングプログラムにおける今までの様々な経験の中で得られた知見を活かし, 企業の現場 で産業技術分野における研究を実践的かつ主体的に体験することで, キーテクノロジーを牽 引する数学博士となるための研鑽を積むこと, であった.

以下にまず, 研究に関して得られた成果を述べる. 今回のインターンシップにおける研究課 題は,
●耐量子暗号技術の安全性を支えると期待されている計算問題の一つである「Poly-LWE 問題」について、既存の求解手法の改善・一般化を与えること
であった. 本研究課題は, 滞在期間序盤において報告者自身が設定したものである. 滞在期間 中盤においては, 受け入れ研究者の助言を受けながらも主体的かつ精力的に研究を行い, 既 存の求解法の(ある種の) 一般化を与えることができた. 一般化にあたっては, 報告者の数学 的基礎の一つである, 有限体における計算手法を多く用いた. 受け入れ研究者からは, 実用性 や情報理論的な助言を多くいただき, (Poly-LWE 問題などの) 計算問題を基礎とする暗号技 術の実用化に関する知見を深めることができた. 滞在期間後半では得られた成果を論文にま とめ, その一部を平成29 年1 月に沖縄で開催される研究集会「2017 年暗号と情報セキュリ ティシンポジウム」で発表させてもらうことになった. 以上のように, 報告者の持つ数学的 知識を活かし, 企業の現場で研究を実践的かつ主体的に行い, 論文という目に見える形で結 果を得ることができた.

研究以外の面で学んだことを以下に述べる. 三か月に渡って英語を母国語とする国で生活を 送り, 実用的な英語運用能力の向上させることができた. 実際, 職場における毎日の会話はも ちろんのこと, 税金関係の手続きや, ホテルでのトラブル時の交渉などで, これまでに培った 英語能力を発揮できた. ときには上手くいかないこともあったが, そういった経験をする中 で改善を繰り返し, 滞在期間終盤においては不便を感じることはほとんどなくなった. また, (本滞在期間中に第45 代アメリカ合衆国大統領選挙が行われたこともあり) 日常会話の中で 政治的話題に関して議論を行い, 自身の意見を述べる機会もあった. その他に, 本インターン シップにおけるアメリカ滞在を通して学んだことを3 つ挙げる.

(a) 何事においても、行動するにあたっては目的を持って完遂し, 結果に繋げること(目的 思考, 成果主義).
(b) チームで活動するとしても, 個々がリーダーシップを発揮し, 必ず行動に移すこと(リー ダーシップ, 行動力).
(c) それらの行動の1 つ1 つを, 無駄なくスピーディーに行うこと(効率性, 合理主義)

そのどれもが, (歴史的にも) アメリカ合衆国におけるビジネスの根底にあるものと考えられ, プロセス重視が根強く残る日本の企業社会とは大きく異なる. ここで, 今回の滞在において 感じたリーダーシップとは, 個々が主体性を持って行動することである. 日本においてリー ダーシップといえば, 「社会組織において, 一人あるいは少数が集団をまとめること」と考え られがちだが, アメリカでは組織に属する全員がリーダーなのである. 個々が行動力を持っ て実践し, 他者も個々の行動を尊重する. 率先して集団を統率しようとせずとも, 個人の成果 が他者を触発し, 他者も得意とするフィールドで成果をあげる. (ここで比較をしないことが 重要である. 異なる価値観を比較しようとすることがナンセンスであり, あくまでも個々が 自分らしさを活かすのである.) このような流れが集団全体に循環し, 結果的に組織全体の発 展に繋がる. 個々の集積の上に国家が成立するというアメリカ社会そのものである. 実際に 今回のインターンシップでは, 受け入れ研究者から具体的な課題を渡されるということはな く, 自分の力で受け入れ機関に貢献できそうな課題を見つけて(受け入れ研究者からの助言 をいただきながらも) 解決に至り, 論文として明確にその形跡を残した.

この三か月間, (大げさかもしれないが) 日本とは正反対とも言える文化の中で日常を過ごし, 研究に励んだ. その中では特に上記の(a), (b), (c) を学んだが, 最終的に一番重要なことは 人や文化に対する寛容性だと思う. アメリカ社会においては(a), (b), (c) が特に重視されて おり, 日本社会も見習うべきだと思う. しかし, 日本社会にはアメリカ社会にはない伝統や, 武士道精神をはじめとした日本の誇りとも呼ぶべきものが多くあり, それらから受ける恩恵 によって日本の人々が幸せを感じていることは言うまでもない, また, これは万国において も然り, 個々の国に独自の文化・社会通念がある. それらを尊重しあい, アイデンティティー に自身と誇りを持ち, お互いに切磋琢磨してよりよき世界を目指すことが真の合理主義・国 際主義であり, 世界中の人々の幸せに繋がると思う. 言語はもちろん, 異なる価値観や文化を 完全にわかりあうのは難しいだろう. それでもなお, 人の心はどこかで繋がっており, 世界の 平和とみんなの幸せを願う気持ちは同じだと私は信じている.
今回の滞在で学んだ多くのことを今後の人生において活かし, 自己実現に向けた手段を合理 的に実践していきたい.


 
連絡先:九州大学数理学研究院/マス・フォア・インダストリ研究所 事務室
(数理・MI研究所事務室)
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